あさがおさん観察日記 '13

2012年1月23日(月) 20:22

Magic の両面カードはなぜ生まれ、そしてなぜダメだったのか?

 こんなタイトルで書き進めてみます。

 ここ最近公開しているコンテンツで繰り返し触れていますが、北米のCCG市場はリーマンショックを境に一時期の隆盛期から随分とその市場規模を減らしていると見られています。そしてここ一年ちょっとほど、その北米CCG市場で最も売れているタイトルは Magic:the Gathering です。要するに日本市場で例えると「 Magic が日本での遊戯王OCGやデュエル・マスターズの役割を担って北米CCGショップの経営を支えている」ということです。これを日本のTCGショップの関係者が見たら「ありえへん」とか思われるかもしれません。 (^^; でも今は間違いなくそれが現実です。

 そういう時代背景の中で Magic やそのメーカーであるWotCは様々な動きを起こしています。特にDCI認定トーナメントにおんぶにだっこだった販促企画に関しては、昨年になってかなり大規模に手を入れてきています。要約すると「招待制の世界選手権やプロツアーを軸とした賞金制競技イベントの規模を削減して、一方でショップ主催イベントへの比重を高めて Magic プレイヤーを販売店に誘導し、更に参加費有料で一般プレイヤーが参加できるグランプリの開催数を増やしてサポート範囲を広げる」という感じです。そのために Magic は長年組織化プレーの核システムだったレーティング制まで廃止して、認定トーナメントの参加実績でポイントが貯まるプレインズウォーカーポイントを導入しています。ただしこの変更に関しては少なからぬ競技崇拝者から文句が出たようで (^^; 発表当初から多少トーンダウンして別の競技イベントを立ち上げるという話も出ています。

 前にも述べていますけど、要するに現在の Magic には今まで考えられなかった“大衆性”が求められるようになっています。さもなければ北米で多くのCCGショップが廃業し、自分達の商品を売ってくれる流通が壊滅してしまう危惧が出てきたからです。これはあくまでも私個人の見方ですが、おそらくWotCは今回の件を機に「 Magic の世界に蔓延する競技性を薄めたい」のではないかと思います。10万人の人間が年10万円も Magic を買ってくれることで維持されるA○B商法みたいなやり方ではなく (^^; 1人当たりの購入額は年1万円位でもいいから Magic のファンやプレイヤーを200万人集めてトータルの売上を増やそう。そういうことです。その方が販売店の賑わいみたいな物は間違いなく生まれますし、将来的にビジネスを維持できる可能性も広がるからです。最近WotCが進めている施策をそういう視点で眺めてみると、その内容に関してはおおよそ説明が付くのではないかと思います。ただ申し訳ないですけど、そんな話はそれこそ私がここを開設した1999年から一貫して言い続けているわけで (^^; それがなんで12年以上も経たないと重要性を認識してもらえなかったのか不思議でしょうがないです。こんな素人ですら遙か昔に気が付いていた話を、聡明かつ賢明であるWotCの方々が認識していなかったとも思えないのですけど。

 ではそういう中で登場した今回の両面カードとは一体何だったのか。ここで上に述べた“ Magic に大衆性が求められるようになった”“ Magic から競技性を薄めて多くの人に手を出してもらう”などのキーワードから類推すると、その答えが朧気ながら見えてきます。ぶっちゃけ言ってしまうと「そういう子供っぽいギミックを喜々として楽しんでくれるような Magic ファンをWotCは増やしたかった」という極めて単純な話です。ただこの後、同様の件で Magic が過去にやった失敗事例をご紹介しますけど、要するに今回の両面カードは「やってることの順番が逆」なのです。例えば今の Magic にいきなり萌えイラストを入れても、それで売上が急に伸びたりはしないでしょうし、むしろ旧来のファンから反感を買って販売低迷にすらつながりかねないです。もしそれをやるなら「 Magic には既存プレイヤーにも萌えイラストを待望しているファンが多い」という確固たるリサーチ結果が出たとか「萌えイラストを入れたら他のTCGから人が流れてきて売上が増える」という明確な勝算が得られて、始めて事に着手すべきじゃないかと思います。しかし Magic は明確な勝算を得ないまま見切り発車で両面カードを出してしまった。だからダメだった。要はこれだけの話なのかもしれません。

# これを書き進める前に他のTCGの事例も調べてみたのですが、裏面の印刷がない両面カードは他にデュエル・マスターズのサイキック・クリーチャーがあります。ただしゲーム開始時、サイキック・クリーチャーは山札には含めないそうです。個人的には「なんでこういうタイプにしなかったの?」とは思います。あとは裏面に相当するカードを従来のトークンのスロットで収録するとか。(やはりデッキには入らない形になると思いますが。)

 さて、ではその「 Magic が過去にやらかした同様の失敗事例」について改めてご紹介してみます。皆様はポータルというカードセットをご記憶でしょうか?(笑)。この製品は過去にポータル/ポータル・セカンドエイジ/ポータル三國志という3つのカードセットが発売されています。発売当初このカードセットは初心者用セットと唱われていて「裏面は Magic だけど Magic のカードセットではないため認定トーナメントで使用されることはない」旨が明確にアナウンスされていたと記憶しています。(当時私は Magic の販売にも関わっていましたので、その辺の資料には人一倍気を使って見ていました。)しかし市場での評判や売上があまりにも◎★※△で、これによりWotCの立場が悪くなったため、その後苦肉の策として「エターナルで使用OKにするね(テヘペロ)」とか言い出したわけです。 (^^; おかげで今ではごく一部のカードがかなり高騰しているようですけど。

# このポータルに関しては更にひどい話がありまして。ポータル三國志の売れ行きが爆死状態だった当時、折しも旧代理店のTCG雑誌がリニューアルしたわけですよ。忘れもしないそのゲームギャザの創刊号。よくあるQ&A形式の宣伝で「 Magic 初心者は何を遊べばいいの?」「 Standard というフォーマットが一番手軽で楽しめるよ」とかやっておいて、その“同じページ”に「初心者はまずポータル三國志を買って Magic を始めよう!」ですよ。 (^^;;; あれはさすがに顎が外れたというか、怒りを通り越して脱力感すら覚えました。あれを見た瞬間に「こんなことをやってたらこの雑誌も長くないわ」と思ったわけですけど、その時私が思っていたよりは何だかんだで長く続いちゃったみたいです。それが良かったのか悪かったのかは私には分かりませんが。

 実はこのポータル発売当初に、私は上に書いた話と全く同じ意見を公開しています。要するに「やってることの順番が逆だろう」ということです。最初のポータルが発売された1997年辺りから、少なくとも日本の Magic には「競技プレイヤーにあらずば人にあらず」的な風潮が(旧代理店の雑誌やその取り巻き諸氏を中心に)蔓延していました。おかげで認定トーナメントを開けば参加者はそこそこ来るけど、そうでないローカルフォーマットのイベントは見向きもされないなんて状況も、その当時から当たり前になっていました。そんな中で、その認定トーナメントで使えないカードセットを発売したところで売れるわけがないです。そういうコンセプトのカードセットを売り出したいのであれば、まずは誰でもないWotCや旧代理店が「少ない負担で長く Magic を楽しめる仕組みや関連イベントを提供します」「認定トーナメントだけが Magic の楽しみ方じゃありません」という啓蒙を行い、それに共感して Magic を楽しむファンを大勢獲得した後にやるべきなのです。もっと言えば昨年来のシステム改訂で見られるような少数精鋭型の賞金制競技イベントを、この時期から志向しても良かったんじゃないでしょうか。

# 実際のところポータル三國志の爆死が確定して販売店が投げ売り状態に入ってから、旧代理店はポータル三國志リーグとか称して遅ればせながらユーザーサポートを開始するのです。そんなイベントに満足な参加者が集まるはずもないんですが。

 両面カードに関しては、発売前から「認定トーナメントの運営が煩雑になる」「こんな子供っぽいカードが Magic に必要なのか?」という評価が言われていました。ポータルの件にしてもそうなのですけど、何より問題なのは「WotCはそういう新しい施策を『新製品の発売直前になって』情報を流し、その市場での評価を『製品の発売後に』聞き集めている」ことです。TVゲームでは時々「ユーザーに金を払わせてデバッガーまでさせている」なんて批判が出ることがありますけど、ポータルや両面カードに関してはまさにこれです。おかげでポータルは一般の販売店がどれだけの不良在庫を抱え、その流れからどれだけの販売店が Magic の取扱い中止を決めたか、私個人には想像も付きません。(私が販売に関わっている店なら、瞬時に「これ、仕入れ数ゼロでいいっす」とか普通に判断しますけど。)両面カードの件にしても1つのブロック内の3つ目のエキスパンションに収録させてもらえないとか、どんだけ不評を買ったんだという感じです。しかもそれでプレリリースなど認定トーナメントの参加者や主催者、更にジャッジ諸氏にも随分と迷惑をかけていると思います。下手すると裏が透明なスリーブは Magic では全く使えなくなるとかもあり得たわけですし。

 長年WotC(+日本の Magic 旧代理店)がやってきた競技至上主義的な Magic の売り方は、言ってしまうと「 Magic から極力無駄な物を省いて最適化する」作業です。当然そういう流れの中ではカスレアは本気で誰も使わないので100円でも放置状態になります。でもポータルにしろ両面カードにしろ、はっきり言うとそれとは真逆の存在でしょう。WotCが自分自身で「 Magic から無駄な要素はすべて剥ぎ取れ!」「弱いカードをデッキに入れるヤツは低脳な豚野郎だ!」的な啓蒙を散々やっておいて、その一方でそういう無駄な物を相変わらず Magic の製品に混入して金を取ろうとする。だから私は昔から言っているのです。「WotCがやっている Magic の競技イベントは、結局のところ金儲けの手段に過ぎず、そこに志など欠片もない」ってね。ただし現在多くの Magic ファンはそういうWotCの洗脳に乗っかって競技的に Magic に取り組んでいる。そういう流れがそう簡単に変わる物ではないでしょう。だったらそういう流れを Magic に作ってしまったWotCは自分でその責任を負うしかないのです。それを今更ながら両面カードごときで Magic にファンプレーの楽しみ方を取り込もうなんて、私から言わせると虫が良すぎます。発売から長年に渡る啓蒙というか洗脳で Magic はそういうTCGになってしまっているのですから、それを変えたいと思うのであればそれと同じか、下手するとその倍以上の年月をかけて変えていくしかないです。そしてそれは今となっては事実上不可能な作業なので、WotCは諦めて今いる競技主義的なプレイヤー相手に Magic を売って自社や販売店を維持する発想で事を動かすしかないでしょう。私としては「自業自得なんですからもはや諦めてください」以外の言葉が見つからないです。

※ 追記(1)

 今回の両面カードの導入で、ポータルを発売してしまった時代の反省が全く活かされなかった件に関しては、その当時から事あるごとにこの件を問題提起してきた私としては「開いた口がふさがらない」というのが正直なところです。しかも今回の件で「WotCはあのポータルの大きな失敗からすら何も学んでいなかった」事が明らかとなり、私としてはむしろそちらの方が大問題じゃないかと感じております。本当思いますけど、せめてあのポータルの失敗を機に Magic が脱・競技とか脱・認定トーナメントの道を志向してくれていれば、今になって大慌てで販促に手を入れる必要もなかったのですけどねえ・・・。

※ 追記(2)

 「成功」「失敗」に関しての話ですけど。

 当時の歴史をご存じの方はお分かりでしょうけど、あのポータルという商品は特に Magic 販売店にとっては黒歴史とも言うべき大量の不良在庫を発生させる元凶でした。それをWotCはかなり後になってエターナルで使用可能にするという後付けの施策で切り抜けようとしました。実際それで今になってポータルはそれなりに市場価値を持つようにはなっていますが、それ以前の投げ売りで大量の赤字を発生させた販売店は数知れません。

 実を言うとそのポータルですら、今となっては「あれは明らかに失敗した」という意見に対する反論が可能になっているわけです。それはWotCが「ポータルはやっちゃいました、すんません」というコメントを出していないし、それこそ市場の在庫が粗方なくなった辺りで体裁を整えるための方針変更をやっているからです。そしておそらく今回の両面カードに関しても、それがいかなる状況や経過を辿ったかにかかわらず、おそらくWotCから謝罪的なコメントは出ないんじゃないかと思います。ですから「明確に失敗だと判明してからコメントを書け」と言われると、おそらく23世紀の初頭になって宇宙戦艦ヤマトが飛ぶような時代になっても書けないんじゃないかと思います(笑)。

 普通に今回の事の経緯を考えると「イニストラード発売→両面カードで問題発生→やめるか?→1回でやめると負け認めたことになるし、闇の隆盛は変更間に合わないよ→次の Avacyn Restored で変更」という流れじゃないかと思われるのですが。そこでポータルの時の失敗が活かされていれば、イニストラードの発売前に「両面カードなんかどうでしょう?」とか言ってプロモカードを配るなどして反響を見る手はあった気がします。 Magic が相変わらず認定トーナメントにその販促の大部分を依存している以上、そういう指向のプレイヤーに負担をかける仕様は好まれない。こんなの素人が考えたって分かります。

# プレインズウォーカーにしても、まさに神ジェイスの件に代表されるように、結局は「これがなければ競技イベントで勝てないぞ!」でごり押ししただけでしょう。

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